ポルノか芸術か 「裸のマハ」 を見て思う事

プラド美術館ではスペインの巨匠、ゴヤの作品を数多く収蔵しています。

全ての作品を見るのに半日以上はかかってしまう程。


日本でもモネやルノワールなど有名な絵画を見る機会はありますが、初めて見る巨大な作品の数々に、これが本物の迫力!と驚かされました。


数百年前のスペイン王室や、戦争、宗教と人間の歩んできた歴史そのものを感じられる場所です。


1800年ごろに描かれた「裸のマハ」は、ポルノか芸術か、といったスキャンダラスな背景を持つ事で面白さを増す作品です。18世紀、まだ写真の無い時代の絵画の裸婦は、人間にとってどれほどの影響力を持っていたのかを想像しながら、この作品に着目していきます。


マハ ( maja ) とはスペイン語で「小粋な娘」という意味で、この絵のモデルはゴヤと関係にあったアルバ公夫人、もう1つはゴドイの愛人であったペピータを描いた、という説もあります。この件を受けて、後に「着衣のマハ」が作成され、プラド美術館では二枚の絵を並べて展示されています。


他の絵画作品の女神やヴィーナスと比べ、生身の人間がモデルになった裸婦は、プライベードを切り取ったような、見てはいけないものを見るような気分にさせられます。


ポルノか芸術かの議論は現代も変わらず問い続けられるテーマですが、裸のマハは、そのモチーフのグレーさと、ゴヤのデッサン技術の高さから、絶妙なバランスの美しさを持っている作品でした。




裸のマハを見て「なんだか “Santa Fe” みたいだな」と思ったので、ここからは少し脱線した小話。




「 Santa Fe 」は篠山紀信の撮影により1991年に発売された、宮沢りえのヘアヌード写真集です。当時18歳だった少女のヘアヌード写真は、日本社会に大きな衝撃を与えました。


この写真集はモデルの美しさとインパクトの強さだけでなく、印刷の技術の高さも素晴らしいとされています。現在、ほとんどの印刷物がオフセット印刷 ( 平版 ) で刷られていますが、「 Santa Fe 」は写真の印刷に適したグラビア印刷 ( 凹版 ) で刷られているそうです。


今でも「グラビアアイドル」という言葉は一般的ですが、“グラビア” は線数の高いリッチな印刷方法の意味。ちなみに今の週刊誌でグラビア印刷を扱っている雑誌はほとんどありません。高画質なテレビもなければ、スマートフォンでいつでもエロが見られる現代とは違い、グラビア印刷で刷られたアイドルの写真は価値の高い物だったんですね。


もちろんこの写真が撮影された約30年前はフイルムカメラの時代。高価なカメラとフイルムを持って、ヌードを撮影するために17歳の少女をアメリカへ連れて行くなんて、篠山紀信、とてつもなく大胆な男。


「 Santa Fe 」もタブーに触れるようなテーマと当時の時代背景、写真技術の高さが作品の魅力のひとつです。「人間の裸は美しい自然物であって、ポルノそのものではない」という表現は、芸術の持つ役割といえます。



また、篠山紀信さんの作品展「快楽の館」が、2017年1月9日まで原美術館で開催中です。



モデルの美しさだけでなく、写真の表現方法だったり、印刷の美しさにも注目してみると、

より楽しめると思いますよ。(行きたいなぁ…)


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